サステナブルな漁業

未利用魚がサステナブルな漁業へのカギとなる?

2019.5.15 UP
森枝:
乱獲の一方で、未利用魚の問題も古くからありました。「五島の魚プロジェクト」に参加しているのもそうですが、僕は漁師さんに会いにいくとまず「いらないものはない?」と聞きます。
日本は海が豊かなので、土地土地でとれる魚や、売れる魚が異なります。網にかかってとれてしまうけど、その土地で需要がない、あるいはお金にならない魚は捨てざるを得ない。処理を丁寧に行っていれば食べられる魚でも、お金にならないから丁寧に扱われず食用にならないケースもあります。
五島でも、それこそクエやブリ、伊勢エビといったおいしい海産物が豊富にとれるし、離島特有の流通コストの問題もあって、うまく流通にのらず未利用魚になってしまっています。
佐々木:
過剰漁獲が問題になっているのに、使える魚を使っていないというアンバランスがありますね。しかも、そもそも漁獲量や漁獲高に含まれないので、未利用魚がどれだけあるのか把握できていない部分も大きい。これらをどう使っていくかは、日本全体で取り組むべき問題だと思います。
また、未利用魚問題といっても疑問を感じる例もありました。ある地域では、ノドグロの幼魚が未利用魚として捨てられているというのです。ノドグロといえば今や高級魚の代表格ですが、網にかかる幼魚は未利用魚として問題になっているとのこと。小さすぎて売れない幼魚を「それをどう使おうか?」と考えるプロジェクトが進んでいるようですが、サステナブル・シーフードの観点からすると、そもそも幼魚はなるだけ獲らない方がいい。卵を産む機会を奪うからです。「幼魚をいかに利用するか」と活用方法を提示して付加価値をつけるのではなく、「幼魚が網にかからないためにはどうしたらいいか?」を考えるべき問題なはず。そもそも捨てられるだけでなく、こういった事例がでてきてしまうのが未利用魚問題の難しさでもあります。
森枝:
小さい魚がおいしく食べられるとなると、「小さいのを積極的にとろう!」となってしまいますからね。日本では、一定の魚種を集中して乱獲し、それがいなくなると次をとり尽くすという漁が行われています。例えば、カワハギが少なくなったせいで外道といわれていたウマヅラハギに価値がつくようになりました。
そうやってひとつひとつ魚を食べ尽くすことを続けています。そうやって無闇に価値をつけるのではなく、未利用魚含めて魚の価値を分散させることがサステナブルにつながるのではないでしょうか。フードロスの観点からすると、食べられるのに捨てられているのはもったいない。未利用魚に一定の価値をつくって、特定の魚に集中した価値を分散させることはできると思います。
今回の「五島の魚プロジェクト」でも、ヒット商品をつくって、これまで廃棄されていたブダイやアイゴといった地魚を人気魚種にしたいと望んでいるわけではありません。それぞれの土地で未利用魚の活用方法を見出したり、過剰乱獲の一方で未利用魚があるというアンバランスを、日本全体でどうバランスさせるかを考えるという視点が大切だと思います。
佐々木:
今回の「五島の魚プロジェクト」は消費者や地元の水産加工会社、流通などさまざまなステークホルダーが一緒になって、未利用魚を使った製品を作り上げています。これまで漁師さん、加工業者さんなど、それぞれの立場で未利用魚問題に取り組んできた事例はありますが、こういった本格的な商品開発は初めてではないでしょうか。
こういった力のある商品が世に出てビジネスモデルとして成功すれば、他の地域にも応用することができます。それぞれの地域で救える魚が一魚種だったとしても、全国的に取り組むことができれば、魚の価値の分散につながります。
なにより、未利用魚の活用が漁師さんの収入源になれば、今後本格的になるであろう漁獲制限や規制に対する体力が生まれます。魚の枯渇は由々しき問題ですが、彼らも、とらなくては明日がないというギリギリのところで魚をとっています。真にサステナブルな海に向かうためには、あらゆる立場からこの問題を考える必要があります。そういった意味でも、未利用魚の上手な活用は、持続可能な漁業にとって明るい光になっていくと考えています。

プロフィール

佐々木ひろこ
日本で国際関係論を、アメリカでジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学び、現在はジャーナリストとして、主に食文化やレストラン、料理をメインフィールドに雑誌、新聞、ウェブサイト等に寄稿。ワールド・ガストロノミー・インスティテュート(WGI)諮問委員。水産資源の問題とであったことをきっかけに、若手シェフらと海の未来を考える料理人グループ「シェフス・フォー・ザ・ブルー」を立ち上げ、積極的な活動を展開中。
森枝幹
専門学校卒業後、シドニーの「Tetsuya's」、表参道の「湖月」、マンダリンオリエンタル東京の「tapas molecular bar」で修行。その後、表参道の246common内にて独立、半年で施設内の三店舗を経営・運営。2年後、代沢の「Salmon & Trout(サーモン・アンド・トラウト)」にて腕をふるうかたわら、新宿ゴールデン街の「The OPEN BOOK」や調布の「Maruta」 などのパーツ、レストラン等のプロデュース、又フードメディア「RiCE」の立ち上げ、テレビやラジオ、雑誌様々なメディアでも活躍する。